第31章 彼女が自ら訪れる

帝都の夜は墨を流したように暗く、湿った大気にネオンが滲んでいる。

橘凛は当てもなく街をスクーターで流していた。冷たい風が頬を叩くのに任せ、思考を漂わせる。

脳裏に浮かぶのは、田舎の祖母の節くれだった、けれど温かい手。そして、田んぼのあぜ道を一人で駆け回っていた幼い日々の記憶。

「おばあちゃんだけは、本当に私を愛してくれてた」

彼女は小さく呟いた。目頭が熱くなるのを感じたが、涙は意地でも零さなかった。

時計の針が十一時を回る。橘凛はついに、あの息の詰まるような実家へ戻る決心をした。

バイクの方向転換をしようとした、その時だった。路地裏から争うような音が聞こえ、彼女の注意を引きつけた...

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